生物多様性条約に関する第6回締約国会議 (COP-6)
22002年4月7日から19日にかけて、生物多様性条約に関する第6回締約国会議(COP‐6)がオランダのハーグで開催された。176カ国、約2000人が参加し、日本からは、外務省、文部科学省、農林水産省、環境省、経済産業省から総勢34名が参加した。日本政府代表団は、山下栄一環境副大臣、岩永浩美農林水産大臣政務官が代表を務め、軽部洋在オランダ大使館公使、宇喜多秀俊外務省地球環境課長が代表代理を務めた。
開会式は第1日目(4月7日)の午後3時より開催され、翌日に全体会議が開催された。全体会議では、COP‐6の議長であるオランダのGeke Faber女史及びCBD事務局長のHamdallah Zedan氏からの挨拶の後、アジェンダの採択、会議の進め方が決められ、各種地域或いは組織からの活動報告がなされた。続いて、翌日より2つのグループに分かれて(WG-1の議長はノルウェーのPeter Schei氏が、WG-2の議長はジャマイカのElaine Fisher女史が務めた)16の議題が論議され、いくつかの議題については更にコンタクトグループが設立され議論が進められた。
COP‐6で論議された16議題の中で、特にモForest Biological Diversityモ, メAlien Species that threaten ecosystems, habitats or speciesモ, メAccess and Benefit-Sharing as related to Genetic Resourcesモの3つのテーマは、今回の主要議題であった。本報告は、主要議題の内の「アクセスと利益配分」を中心に議論の経緯を素描するとともに、その議論の今後の方向性について述べるものである。
遺伝資源へのアクセスと利益配分の論議は、4月9日の午前10時45分からWG-2の中で始まった。本議題における主な内容は、「ボン・ガイドライン案」、「知的所有権」、「能力構築」の3点であり、WG-2ではこの3点について各国の意見が述べられた。
1.ボン・ガイドライン案 (Draft Bonn Guidelines)
多くの国がボン・ガイドライン案を高く評価し、COP‐6で採択されることを要望した。日本は、ボン・ガイドライン案は遺伝資源提供者と利用者の双方にとって有益なものであり、遺伝資源へのアクセスと利益配分を促進するものであるので、若干解決しなければならない部分はあるもののCOP‐6で採択されることを希望する旨を発言した。ボン・ガイドライン案は、任意性、利便性、実用性、受容性、補完性、進化的アプローチ、柔軟性、透明性を保証する目的で策定されているが、エチオピアおよびフィリピンは本ガイドライン案を国際的に拘束力のある協定書にすべきと発言した。しかし、他の多くの国は任意性であることの重要性を強調した。また、カナダおよびメキシコからは、伝統的知識に関しても論議を重ねた上で本ガイドライン案に反映させて欲しいとの要望が述べられた。
2.知的財産権 (Intellectual Property Rights: IPR)
知的財産権に関しては、コロンビア、インド、ジャマイカ、ペルーなどから特許明細書に原産国を明記する点が強調されたが、EUおよびノルウェーからは現在の制度からはあくまでも自発的な要項であるとの見解が示された。日本は、本件についてはWIPOなどと共同して論議をすることの重要性を述べたが、一般に先進国側は同様な考えを表明した。また、TRIPS協議会へのCBD関係者のオブザーバー出席およびITPGRFA、TRIPS、UNCTAD、UPOV、WIPOとの協調については多くの国によって指示された。
3.能力構築 (Capacity Building)
遺伝資源へのアクセスと利益配分のための能力構築に関するOpen-ended Expert Workshopの開催をCBD事務局に働きかける点に関しては多くの国が賛同を示した。さらに、インドネシアはそのワークショップへの企業の参加を要望した。フィリピンは利害関係者の参加を促すようなアプローチ及び方法に関する能力構築を要望し、カナダは原住民及び地域住民の問題を優先させるべきであるとした。また、日本は、能力構築は遺伝資源へのアクセスと利益配分を促進する上で重要であるとし、特に、ボン・ガイドラインの実施の観点から立法上、行政上の技術的な面に関する能力構築を優先するべきであると主張した。
WG-2での議論終了直前に、議長から本件のコンタクトグループの設立が説明され、ペルーのBrendan Tobin氏とスイスのAlwin Kopse氏の議長のもとに午後7時から開催された。
コンタクトグループでのABS論議
午後7時過ぎから始まったコンタクトグループでの議論は、2001年10月にドイツのボンで開催されたAd Hoc Open-ended Working Group on Access and Benefit-sharingで十分審議されなかったボン・ガイドライン案のいわゆる積み残しの部分についての議論から開始された。夜中の11時20分まで続いた議論の焦点は以下の4点であるが、建設的な議論であったとは言い難い。
1)「V. その他の規定、A. インセンティブ」に関して
2)「附属書I、MTA要素案」に関して
3)「附属書II、金銭的及び非金銭的利益」に関して
ABSコンタクトグループは翌日の午後1時20分から再開された。コスタリカ、ブラジル、コロンビア、メキシコなどからボン・ガイドライン案の文章の追加・変更が述べられたが、EUおよびドイツからは、ボン・ガイドライン案は進化的なアプローチをするのであるから、今更多くの追加・変更を加えるのはいかがなものかとの意見で対立し、わずか50分で閉会した。
JUSCANSグループは、ABSコンタクトグループでの会議の進捗に危機感を持ち、急遽、午後3時からJUSCANSグループ会合を持ち、意見調整を図ることとなった。そして、ボン・ガイドライン案における用語の定義においては、以下のような4つの選択肢が提案された。
* ボン・ガイドラインの本文から切り離し、附属書に移す。
* 用語を定義するワーキンググループを設立する。
* 専門家グループを設立し、E-mailなどで調整する。
* SUBSTAに下駄を預ける。
ボン・ガイドライン案のスコープと42項にある派生物の取り扱いに関しては、スコープからは除外する方向で意見の一致を見た。また、コロンビアは遺伝資源の管轄権を遺伝資源の所有権と解釈している点、メキシコは遺伝資源利用者を遺伝資源利用国としている点に今後の注意が必要である点が確認された。
午後9時から再開されたABSコンタクトグループでは、派生物に関する取り扱いが議論の中心となった。途上国の多くはボン・ガイドライン案のスコープに派生物を含めるべきであると主張し、先進国はそれに反対した。長時間に渡る応酬が続いた後、日本の代表が化学者としての観点から派生物の定義をわかりやすく解説したところ、途上国の意味するところの派生物と化学的な意味での派生物との間に考え方の違いがあることが明確になった。すかさず議長から小休止が要請されたが、再開後の議論においてはスコープから派生物を削除することで、急転直下、意見の一致を見ることになった。午後11時20分に閉会。
本報告者は、翌日帰国したのでその後の論議には参加できなかった。しかしながら、経済産業省代表の谷氏及び炭田氏によれば、ボン・ガイドライン案の用語の定義に関しては、当面、ボン・ガイドラインの本文から切り離し、議論を先送りすることになり、今後、作業部会を2年以内に開催し、そこでの議題の一つになったということである。
ボン・ガイドラインに可能な限り強制力を持たせる文言を多く入れたい途上国と、自発性、柔軟性、実践性、簡素化を重視する先進国との間で激しい議論が戦わされたCOP-6であったが、終盤に近づいて双方が譲歩することにより、ボン・ガイドラインは採択されるに至った。次回の締約国会議(COP-7)は、2004年にマレーシアで開催される。
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