生物多様性条約・遺伝資源を巡る最新情報説明会
第1回名古屋議定書政府間委員会(ICNP-1)報告


日 時: 平成23年8月1日(月)15時〜17時
会 場: 一般財団法人バイオインダストリー協会(JBA) 第1会議室


プログラム

  1.  ご挨拶  経済産業省生物化学産業課事業環境整備室長   岡田 正孝氏
  2.  「第1回名古屋議定書政府間委員会報告」  一般財団法人バイオインダストリー協会 薮崎 義康
  3.  「WIPO/第19回政府間委員会の報告」  特許庁 国際課 多国間政策室長 夏目 健一郎氏
  4.  ディスカッション

<概要> 平成23年8月1日(月)、本年度の第1回目となる「遺伝資源を巡る最新情報説明会」を一般財団バイオインダストリー協会(JBA)の会議室にて開催した。参加定員60名に対し90名以上の申し込みがあったため、早期に募集を締め切らざるを得ないという事態となった。昨年、愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約(CBD)第10回締約国会議(COP10)で採択された「遺伝資源へのアクセスとその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分(ABS)に関する名古屋議定書(略称「名古屋議定書」)」や、COP10後の国際動向への関心の高さが感じられた。
 本説明会では、2つの国際会議の結果が報告された。1つ目はCOP10でCOP11までに2回開催することが決定された「名古屋議定書政府間委員会」の第1回会合報告であり、2つ目は世界知的所有権機関(WIPO)で開催された第19回知的財産権と遺伝資源・伝統的知識・フォークロアに関する政府間委員会(IGC)の会合報告である。
参加者には、講演者の発表資料と、参考資料として名古屋議定書(JBA訳)が配布された。

<各講演について>

1. 「名古屋議定書第1回政府間委員会」報告 JBA生物資源総合研究所所長 薮崎義康

 名古屋議定書第1回政府間委員会会合の論点説明の前に、CBDの概要とABSの基本原則、名古屋議定書採択に至るCOP10での議論の概要について紹介し、名古屋議定書の主要規定を解説した。
名古屋議定書は、遺伝資源の提供国と釣り合いの取れた利用国での遵守措置(チェックポイントの設置義務)、ABSクリアリング・ハウス(ABS-CH)の設置、地球規模の多国間利益配分メカニズムの検討、等を規定した。さらに、「遺伝資源に関する伝統的知識(TK)」は国内法に従って利益配分を含め遺伝資源と同様の扱いになった。
CBDでは、遺伝資源に対する各国の主権的権利を認め、ABSに関する措置を各国の国内法に委ねており、名古屋議定書が採択された現時点においても、遺伝資源等の利用者にとって今までの手続きを変更するものではない。名古屋議定書は本年2月に署名開放されており、説明会の時点で途上国を中心に41カ国(EUを含む)が署名を済ませた。しかし、発効のためには批准が必要であり、それが50カ国に達してから90日目に発効となる。?CBD事務局は2012年の締約国会議(COP11・インド)で名古屋議定書の締約国会議を開催したいとし、その準備のために政府間委員会を設置し、会期間で2回の会合を開催することとした。その第1回会合が本年6月5日〜10日にモントリオールで開かれた。検討課題は4項目(アクセスと利益配分クリアリングハウス(ABS-CH)の運用方法、途上国の能力構築を支援するための措置、ABSについての意識啓発のための措置、議定書の遵守のための制度的な仕組み・・チェックポイントの議論ではない)であったが、名古屋議定書の実施の鍵となるのがABS-CHであることから、ABS-CHの運用方法、ABS-CHへの登録データ等が議論された。結果として、予算的措置ができ次第パイロットフェースを開始するとした。その他の議題、能力構築や意識啓発に関しては、財政的支援を求めつつ、各国政府や関係者の意見を集約して今後の戦略や内容について事務局がまとめていくこととなった。
尚、第2回会合は2012年4月にインド・デリーで開催され、6項目の課題の検討とともに、必要に応じて第1回会合の継続審議が行われる。中でも「地球規模の多国間利益配分の仕組み」が大きな議論となろう。
 最後に、JBAが従来から実施している研究者等へのアクセス支援活動について紹介もした。


2. WIPO/ IGC第19回会合の報告  特許庁国際課国際制度企画官 夏目健一郎室長

遺伝資源と知的財産権についての問題は、CBDで利益配分の根拠の為に特許における遺伝資源の出所記載の要求(出所開示の義務化)がなされてきた他、WTO/TRIPS協定、WIPO/IGCで議論されてきた。そして、出所開示に関する議論は現在主にIGCでなされている。
IGCは、特許の手続きに関する世界的調和を目指す特許法条約(PLT)の議論の過程で、途上国による「特許明細書に、生物・遺伝資源の出所開示を盛り込むべき」との主張に対してその議論を深める為に設置されたものである。そこでは、遺伝資源、TK、伝統的文化表現・フォークロアの保護について、知的財産権の観点から専門的かつ包括的な議論が行われている。概ね2年ごとにWIPO加盟国総会にてマンデートが更新され、それに基づきIGCが開催されている。
2010~2011年までのマンデートは、国際的な法的文書(法的拘束力については明記されていない)のテキスト合意を目的としたテキストベースでの交渉で、保護すべき対象の定義や範囲、目的等の基本的事項について法的文書のテキスト案を作成し、WIPO総会に提出することであった。そのために、専門家による集中的な議論がなされてきたが、7月に開催された現マンデート下の最後の会合(第19回IGC)でも先進国・途上国の意見の隔たりは大きく、議論は纏まらず、更に2年の議論を継続するというマンデート案を合意した。
2012年からのマンデート案は、引き続きテキストベースの議論を促進し、2年間で4回のIGCを開催することとなっている。内容は停滞してはいるものの、会議の開催は決まっており、TKの保護とその必要性に関する議論ではまだまだ長い議論と粘り強い交渉が必要となろう。
日本特許庁は途上国の意見を受け、公知である伝統的知識に対して「誤った特許付与」をしない為にTKに関するデータ・ベースの構築を提案してきた。しかし、途上国の究極的目的は、TK及び伝統的文化表現を「無期限に」保護(権利化)することである。そのためにいまだに収束は見えない。
また、WTOにおいては貿易に関する複数の決議事項をパッケージで合意できるため、特許における生物・遺伝資源の出所開示義務化を外交交渉で解決しようとする動きもあるので留意が必要である。


3. ディスカッション
(質問)出所開示のデメリットは?
(回答)特許は発明者に一定期間、独占的特権を付与する代わりに、その技術を広く社会に公表して、更なる技術開発を促進し、保護と利用のバランスでもって産業を発達させることを目的としている。特許性の要件は、新規性・進歩性・産業上の利用可能性であり、出所開示は特許要件とは関係がない。さらに、特許に出所を記載することは審査官による特許審査の負担となるとともに、出願者にとっては権利の不安定性にも繋がる。
(質問)特許要件に関係がないとする事について、途上国の反論はどのようなものか?
(回答)出所開示は特許制度とは関係ないものの、現実には「バイオパイラシー」が存在し、特許が取得されている。この「バイオパイラシー」への対応策として名古屋議定書が採択されたと考えている。したがって、この名古屋議定書を支えるために特許の観点から支援して欲しい。あらゆるところで網をかけたいというのが、途上国の考えだ。
(質問)一部の国は、TKについてのデータ・ベース(TKDL)を作成している。このようなポータル的なものができれば審査官も特許審査に利用できると思う。
(回答)データ・ベース構築については誰も反対はしていない。しかし、途上国は、「出所開示も必要だ」と主張している。
(質問)出所開示について、米国はどのように考えているのか?
(回答)米国の知財に関しての考え方は政権が変わっても同じで、基本方針は一貫して特許開示制度には反対である。
また、EUは各国単位で対応しているが、最近EUとして発言する機会が増えている。
(質問)WTO/TRIPSでのEUによる地理的表示に関する主張がTKの議論を推し進める要因となっているのか?
(回答)EUは一時、地理的表示とTKを一緒にして交渉に乗せるという考えに傾いたが、現在は会合も少ないし地理的表示の交渉は停滞している。
(質問)名古屋議定書に規定されたチェック・ポイントの姿が具体的に見えない。しかし、出所開示がチェック・ポイントとなるのか。また、「バイオパイラシー」は実際に存在するのか?
(回答)チェックポイントの設置は各国が適宜対応することとなっている。日本はまだ具体的な動きはない。「バイオパイラシー」として訴えられた米国でのターメリックに対する特許付与は、パイラシーではなく特許の「誤った付与」である。また、「バイオパイラシー」と主張する途上国側にどのようなものなのかを問うても、彼らからの回答はない。
(質問)名古屋議定書の交渉中に出てきた、”Publicly Available”というものは特許からみてどのようなものなのか?
(回答)既に知られているTKと考えるが、途上国側はPublicly Availableであるが、Public Domainにはないと主張している。さらに、その保護期間は有年ではなく無期限であると主張する。

会場風景
(写真:会場風景)

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