生物資源総合研究所


 1993年12月29日に発効した生物多様性条約 (Convention on Biological Diversity: CBD) には、次の3つの目的があります。
  1. 生物多様性の保全
  2. 生物多様性の構成要素の持続可能な利用
  3. 遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分

 この3番目の目的に関わる問題を「遺伝資源へのアクセスと利益配分(Access and Benefit-sharing:ABS)」と呼んでおり、私たち一般財団法人バイオインダストリー協会 生物資源総合研究所は、このABSに関わる様々な課題に取り組んでいます。
 
 CBDでは、このABSに関し、遺伝資源を含む天然資源に対する各国の主権的権利を認め、遺伝資源を利用する際には、①資源提供国の国内法の定めに従って、当該国の事前同意を得ること、②遺伝資源の利用から生じる利益を公正かつ衡平に配分すること、という2つの基本原則を定めました。
 
 しかしながら、残念なことに、CBD発効以降、海外の遺伝資源へのアクセスは停滞してしまいました。その主たる原因は以下の2点であると考えられます。

  1. 国内法を整備していない国が多く、遺伝資源提供国のアクセス方法が不明確であること
  2. 「遺伝資源」等、用語の定義が明確でなく、国毎にABSに対する考え方や対象範囲が異なること

 このような状況の下、私たちは、政府から委託された国際協力事業である

  • 「生物多様性保全と持続的利用等に関する研究協力」(1993-2000)
  • 「バイオインダストリー集団研修コース」(1988-2010)
等のプロジェクトを実施し、多くの遺伝資源提供国と協力関係を築いたり、人材育成を行うなど、アクセスの停滞を改善する取組みを行ってきました。
 
 また、最近では経済産業省からの委託事業である
  • 「生物多様性条約に基づく遺伝資源へのアクセス促進事業」(2002-2010)
  • 「生物多様性総合対策事業」(2010-現在)
を実施し、日本の企業や大学の研究者など遺伝資源の利用者が円滑に遺伝資源にアクセスできるよう
  1. 遺伝資源アクセス関連情報の提供(専用WEBサイト、オープンセミナー)
  2. 相談窓口の開設(アドバイスを無料&守秘で提供)
  3. 海外アクセスルートの開拓(2国間ワークショップ、現地調査)
  4. 国際交渉への参加
等のABS支援活動を行っています。

 一方、CBDの下では、ABSの「国際的な枠組み(International Regime:IR)」に関する交渉が、2002年から開始されました。この交渉は、各国の意見の対立等で難航しましたが、2010年に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約締約国会議第10回会合(COP10)において、政治的決着という劇的な展開で「遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書(名古屋議定書)」が採択されました。
 
 この名古屋議定書では、CBDの下でのABSの2つの基本原則はそのままに、遺伝資源提供国に対し、ABS国内法令等を整備し、CBD事務局のWEBに設置される情報交換センターであるABSクリアリング・ハウス(ABS-CH)に公開することが義務付けられました(締約国は、自国の遺伝資源へのアクセスを、ABS法令等で規制しないという選択肢をとることも可能)。このため、名古屋議定書が円滑に機能すれば、先に挙げた原因1が解消され、円滑に海外の遺伝資源へアクセスできることが期待されます。しかしながら、これまでに締約国となった国々において、名古屋議定書に則ったABS国内法令等を整備した国はまだ確認できていません(2015年4月現在)。このため、各国のアクセス方法が明確になるには、まだまだ時間が掛かるのではないかと思われます。
 
 さらに、原因2に対しては、名古屋議定書は何も解決策を提示していません。なぜなら、「遺伝資源」の定義はCBDの下での定義そのままであり、相変わらず対象となる遺伝資源の外縁がはっきりしないからです。また、「遺伝資源の利用」や「派生物」など、新たに加わった用語の定義も明確でなく、反って混迷を深めた感さえあります。
 
 名古屋議定書は、2014年10月12日に発効しましたが、このように海外の遺伝資源へのアクセスが停滞している状況が、直ちに解消されるとは思われません。
 一方、バイオ関連の研究開発は、人類が直面している地球規模の課題の解決に大きく貢献することが期待されます。そのためには、バイオ関連の研究開発の基盤である遺伝資源に、円滑にアクセスできる環境を整えることが、ますます重要となってきます。このため、私たち一般財団法人バイオインダストリー協会 生物資源総合研究所は、引き続きABSに関連する数々の課題に取り組み、日本の企業や大学の研究者などが円滑に遺伝資源にアクセスできるよう支援していきたいと考えています。

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